薬局長を務めるうちに
薬局経営の面白さに目覚めた。
大学院を卒業した後、小さな調剤薬局を経て、中堅調剤薬局チェーンに7年間勤めていました。ヒラの薬剤師だった頃は、いち薬剤師として目の前のお客様の力になることで頭がいっぱいだったのですが、30歳手前で薬局長になると、売上やサービスの向上策、人材育成など、店全体のことを考えるようになりました。自分にはそれが性に合っていたようで、店の経営にも面白みを感じ始めました。
ただ、チェーン店にいると、自分の権限でできることに限りがあります。たとえば、いくつかの店で勤務するなかで、さまざまなドクターと知り合えたのですが、「在宅医療を手伝ってくれないか」と新たな取組みの誘いを受けても、雇われている以上は、自分だけで判断できません。そこにもどかしさを感じるようになり、「独立して自分の店を持ちたい」「すべて自ら判断したい」と考えるようになりました。今から5年前ぐらいのことです。
ローリスクで独立できる
サポートが受けられるから。
独立を希望していましたが、一方で、リスクはできるだけ低く抑えたい気持ちもありました。薬局をいちから開業するとなると、数千万円の資金が必要になるかと思うのですが、そこまでの借金を背負いたくはなかった。
そんなことを考えていたときに、薬剤師の専門誌『日経DI』で見つけたのが、アポウィルの広告です。「リタイアを考えているオーナーなどから既存の店舗を譲り受ければ、いちから開業するより、少ない資金で薬局のオーナーになれる」。こんな内容の広告を目にして、「これならローリスクで独立できる」と思い、さっそく登録しました。
薬局の場所などの要望を細かく出していたからか、それから4年間は、物件紹介の連絡が来ませんでしたけどね。今年の始めに、ようやく連絡が来ました。その薬局は、自分の地元であり、チェーン薬局時代の勤務地からも程近いエリアの薬局。大きな病院の門前にあり、小さな規模であるものの、安定した売上をあげていました。
当初、旧オーナーの意向は、「この薬局を貸すので、経営してほしい」ということでしたが、どうせなら自分がオーナーになりたいと思った。そこで譲渡金額をたずねると、自分の貯金で買えるような金額でした。それなら買います、と即決しましたね。
そこから譲渡に至るまでの流れはスムーズでした。担当者がアポウィルからアテックの方に変わったのですが、調剤薬局のM&Aを何百件も手がけてきただけあり、安心感がありました。
譲渡は2013年7月でしたが、すんなりと引き継ぐために、4月から入店させてもらいました。薬剤師はしばらく僕一人でやっていくことにしたので、お客様との関係づくりや見慣れない薬の対応などで苦労することもありましたが、徐々に慣れました。
自分の考えでどんな挑戦でもできる。
ワクワクできる将来が描ける
独立してからは、仕事に対する意識が大きく変わりました。勤めていたときは、正直「忙しいと嫌だな」と考えていましたが、いまは「暇だと嫌だな。忙しければ忙しいほどいい」と思うようになった。幸い、前のオーナーさんの患者様を引き継いでいますから、暇で困る日はほとんどありません。既存店を引き継ぐことの強さを感じます。
独立して良かったと感じることは、やはり、自分の考えで、お店を経営できることですね。たとえば、めったに出ない薬の処方せんが来ると赤字になるので、お断りするという判断もあると思うのですが、私はできるだけ応じたい。こういうことを自分で即決できるので、患者様に対して納得できるサービスを提供できます。
その特権を生かして、今後はいろいろなことにも挑戦したいですね。営業時間は、門前の大病院に合わせて、17時30分にしているので、早く家に帰れるのですが、その夜の時間を使って、ドクターやケアマネジャーが集まる研究会などに顔を出しています。チーム医療などの新しい動きが出てきたら、いち早く手をあげられますからね。今後、どんな展開が待ち受けているのか、と考えると、自分やこの店の将来が楽しみで仕方ありません。
最近は、「リスクが高いから独立したくない」という薬剤師さんが多いと聞きますが、私のように数百万円の資金で始めることもできる。それで夢が買えるのですから、安い買い物ですよね。少なくとも、私は決断して良かったと思います。
フラワー調剤薬局 神野大作さん(34歳)
1979年生まれ。北陸大学大学院薬学研究科修士課程を卒業。
個人経営の調剤薬局や調剤薬局チェーン、病院勤務を経て、2013年7月より愛知県春日井市にあるフラワー調剤薬局のオーナー兼管理薬剤師に。