不満を言い募らすよりも、
新しい居場所を。
「患者さんではなく、数字ばかりみる。そんな場所に、いたくなかった」
「もう、ついていけない…」
7年間つとめた薬局をやめた理由はそれでした。その薬局の経営者は貪欲な方で、「在宅医療に力を入れよう」「商圏を広げよう」と積極的に攻めの経営を続けていた。同時に「利益を意識しろ!」「生産性をあげろ!」が口癖だったんですね。
もちろん、経営のひとつのスタイルとしてはアリ。
しかし、個人的に私にはナシだったんですよ。
まず薬剤師の負担が増えるばかりで、疲弊した同僚たちがどんどん辞めていった。何より機械のように薬を出し、患者さんの顔も満足に見ないような日々に、ガマンができなくなったんです。
「ならば自分たちの薬局を!」と独立を決めたわけです。
転職は考えませんでしたね。40歳を過ぎて雇われたままというのも…という意識もあった。加えて、来年から6年制に変わった薬学部卒業生が社会に出てくることも一因ですね。給料が安く若い彼らと同じ土俵にあがったら、勝ち目はないでしょうからね。
ところが……現実は厳しかった。
おカネも、コネも、ノウハウも。
すべての”ない”を支えてくれた!
銀行からは「融資はムリ」といわれる。
卸会社からは「取引は難しいですね」と断られる――。
ハードルの高さを思い知らされました。
考えてみれば、実績も資金もノウハウもないわけですからね。
そんなとき、業界誌の広告をみて『アポウィル』を知ったんです。
試しに……と門を叩いた。資金面、ノウハウ面、卸先の仲介までしてくれると知りました。まさに僕の“足りない”部分を補完してくれることは驚きでしたよね。
だから僕はアポウィルに登録、「他の既存店を承継する」スタイルでの独立を目指すことにしたんです。
資金は貯金の数百万円。
病院で薬剤師をしていた妻と二人での独立ですね。いや、最初、妻は反対でしたよ。「あなたに経営なんてムリ」と。けれど、自分ひとりじゃなく、親身なコンサルも受けられる、信用も得られる、という話しを伝えると納得してくれた。彼女を説得できたのが、まずアポウィルの最初の効用でした(笑)。
患者さんとの距離が近い。
自分を磨く時間もとれる。
登録後、薬剤師として働きつつ経営者研修を受けました。研修先はアポウィルを利用してオーナーになった“先輩”の薬局。同じ経験を持つ先輩に、実体験をうかがえたのも良かったですね。
そして今年5月、連絡を受け、このA薬局を承継することになった。
住宅地の中、総合病院の横にある小さな薬局。まさに理想的でした。足りない資金は、商工中金から融資を受けられました。卸会社との交渉も、好条件で成立。スタッフの紹介もしてもらえた。
何もかもアポウィルのサポートがあったからこそ、ですね。
もっとも、店名や内装、さらにサービスの変更は私の意思で変えました。例えばうちは高齢の患者さんが多いので、ソファに座った患者さんのもとに薬剤師が伺ってクスリをお渡しするスタイルとしました。また無料のお茶はつねに数種類用意しています。
どれも手間だし、コストともいえる。前に勤めていた薬局なら不採用でしょうね(笑)。けれど、ココは僕の薬局だから――。
1日の処方箋は40枚前後。決して多くないけれど、自分たちのペースで仕事ができています。空いた時間を医薬の勉強にあてることもできるのもいい。
薬局経営は決して楽な世界ではない。けれど流されるのではなく、自分の意思で挑戦できる充実感は、雇われたままでは感じられないものだと実感しています。
A薬局 HTさん(44歳)
1967年生まれ。大学薬学部卒業後、研究所研究職を経た後、調剤薬局勤務。
2010年12月に独立を決意し、アポウィル登録。
2011年5月「A薬局」を前オーナーより承継した。3児の父でもある